「トップの方針転換から全体の方向転換までの速さが命運を分ける」
2009年1月
謹賀新年 明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。 2009年が始まりました。世界恐慌ともいえる経済状況の最中にありながら、快晴で穏やかな 正月の時が流れています。年末の買い物もそれなりに賑わっていましたし、初詣にも大勢の人が 訪れています。マスコミ報道を見ると、まるで需要がゼロになってしまうがごとく大騒ぎをして いますが、実際にはどんなに不況でも一定の需要は存在しているのであり、企業努力により競合企業 のパイを奪って、売上を伸ばすことは十分に可能なのです。
昨年の象徴的な出来事は、日本の代表的な小売チェーンが、一斉にディスカウント志向に方針転換した ことです。それまでは、「日本の消費者はレベルが高いので、価格を下げるのではなく、品質を高めるのだ」 という論調が主流だったように思います。私はむしろ逆で、「日本の消費者は高価格を押し付けられている から、品質にこだわらざるをえないのだ」と主張していたのですが、そんな論戦はどうでもよいとばかりに、 急速にディスカウント志向に方針転換してしまったのですから、その変わり身の速さは、実に見事だと 言わざるをえません。
実際に店頭を見ても、従来は商品ライフサイクルを意図的に縮めることによって、高価格を維持する戦略を 取っていたことは明らかです。しかし、現在の店頭にはPB商品が山積みされており、 その露出度の高さに驚くばかりです。今後、PB商品のライフサイクルをどのように設定するかは 未知数ですが、少なくともこれまでよりはロングランの展開になるのではないかと予測されます。 従来は欧米に比べて、日本の商品はあまりにもライフサイクルが短く、多大な無駄を生み出していた状況が、 これで少しは解消の方向に向かうのではないかと期待しています。
小売業は『変化対応業』ですから、状況が変わったと思ったら即座に方針転換することは、当然のこと です。リアルタイムの正しい判断のもとに方針を転換するのであれば、まさに朝令暮改こそあるべき姿 だと言うことができます。経営者は学者ではないのですから、実を取るためならば、従来の主張を翻す ことなど取るに足りないことであり、その意味で日本の小売チェーンの経営者の行動は評価すべきと考え ます。
問題は、企業トップの突然の方針転換に応じて、企業全体が方向転換できるかどうかです。企業の規模が 大きくなればなるほど、企業トップが180度の方針転換を告げてから、実際に企業がその方向に動き 出すまでに時間がかかるのが常です。その時間を1秒でも短縮するためには、企業トップは明確で強烈な メッセージを発信するとともに、幹部社員に対して、具体的な指示を出すことが不可欠です。常日頃から 企業トップに対する信頼を高めておかなければ、部下は思う方向には動いてくれません。
日産のCEOであるカルロス・ゴーン氏の自伝に、企業のトップになってはじめて自分の考えを実現する ことが可能になるのであり、ナンバー2では実現できないという内容が書かれていました。激動の時代には 朝礼暮改の改革が待ったなしで連続するはずであり、企業トップの責任が極めて重要になることは明らか です。トップ自らが的確な方針転換をして、企業全体を1秒でも速く方向転換させることができるかどうか で、企業の命運が分かれます。2009年は、企業トップのリーダーシップが問われる年になるでしょう。